経審の社会保険、ちゃんと「適切な保険」になってますか?
経営事項審査(経審)を受けるとき、社会保険の加入状況は審査項目のひとつとして確認されます。
「うちはちゃんと入ってるよ」と思っていても、加入している保険の組み合わせが国土交通省の定める「適切な保険」に該当しているかどうかまで確認できていますか?ここがズレていると、経審の評点に影響するだけでなく、現場入場を断られるケースもあります。
「適切な保険」とは何か、まず整理しておきましょう
国土交通省が進める社会保険加入対策では、建設業者が加入すべき保険を事業所の形態ごとに整理しています(国土交通省「建設業における社会保険加入対策」ページ)。
法人であれば健康保険と厚生年金保険への加入が原則です。
ただし、建設国保など国民健康保険組合に加入している場合は、年金事務所で「健康保険被保険者適用除外承認」を受けていれば、「国民健康保険組合+厚生年金保険」の組み合わせでも問題ないとされています。
この適用除外承認の手続きを踏まずに建設国保だけ入っているケースが、実務ではちょいちょい見受けられます。
雇用保険については、法人・個人事業主を問わず、常用労働者を1人でも雇っていれば加入義務が生じます。
役員のみの会社なら不要ですが、現場作業員を社員として雇用している場合は必須です。
「うちは一人親方ばかり使っているから関係ない」という話をよく聞きますが、その一人親方が実態として労働者と変わらない働き方をしている場合、そもそもの雇用関係の整理が必要になることもあります。
経審では具体的にどう評価されるのか
経審の審査項目W点(その他の審査項目)の中に、社会保険加入の状況が含まれています。
健康保険・厚生年金保険・雇用保険の3種類すべてに適切に加入していれば15点が加算され、1種類でも未加入・未手続きがあると減点になります。
W点はP点全体の中では比重が小さいものの、ライバル社との点差が僅差の入札では十分に影響してくる数字です。
さらに、平成29年度以降は「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」に基づき、元請企業は社会保険未加入の企業を下請として選定しないよう求められています。
適切な保険に加入していない作業員は、特段の事情がない限り現場入場を認めない取り扱いも明記されました。
経審の点数だけでなく、受注機会そのものに関わる話です。
見積書の「法定福利費」も見落とさないでください
社会保険加入対策の流れの中で、見積書への法定福利費の内訳明示も業界全体の取り組みとして定着しつつあります。
法定福利費とは社会保険料の事業主負担分のことで、健康保険・厚生年金・雇用保険それぞれの事業主負担額を見積書に明記するものです。
これを正確に計上しておかないと、下請け企業が保険料を自腹で補填する構造になってしまいます。
令和8年3月には「子ども・子育て支援金」の取り扱いに関する事務連絡も発出されており、料率自体も定期的に改定されるため、都度確認が必要です。
保険料率は厚生労働省や日本年金機構のホームページで公開されています。
毎年4月に改定されることが多いので、前年度の率を使い続けているケースには注意が必要です。
経理担当の方には、年度替わりのタイミングで必ず最新の料率を確認する習慣をつけてもらうことをお勧めします。
一人親方を使っている会社は特に確認を
一人親方は請負として働く場合、国民健康保険と国民年金に個人で加入することになります。
しかし問題は、実態として労働者と同じ働き方をしているにもかかわらず、形式上「一人親方」として処理されているケースです。
こうした「偽装一人親方」への対策は国土交通省が特に力を入れている分野で、令和8年3月にも「一人親方に関する基礎知識」のリーフレットが発出されたばかりです。
経審の直前になって発覚すると対応が間に合わなくなるため、日頃から実態に即した雇用区分になっているか確認しておく必要があります。
よくある確認漏れと対処法
実務でよくあるのは、次の2パターンです。
- 建設国保に加入しているが、年金事務所への「適用除外承認」の手続きが済んでいない(厚生年金保険に二重加入状態になっているか、あるいは厚生年金が未加入のまま)
- 従業員を新たに雇用したタイミングで雇用保険の被保険者資格取得届を出し忘れている
前者は年金事務所、後者はハローワークへの届出が必要です。
どちらも経審の直前に気づいた場合、審査に間に合わせるには時間的な余裕がほぼありません。
決算変更届と同様、経審の準備は決算後すぐに着手するのが鉄則です。
加入すべき保険の種類に迷ったときは、国土交通省のページに掲載されている「適切な保険」確認シート(フローチャート形式)が便利です。
また、社会保険制度の個別の相談については、各都道府県の社会保険労務士会でも受け付けています。
Q&A
Q1. 建設国保に入っていますが、協会けんぽに入り直す必要がありますか?
法人や常用労働者が5人以上の個人事業所の場合でも、年金事務所に「健康保険被保険者適用除外承認」の申請を行って承認を受けていれば、建設国保+厚生年金保険の組み合わせで「適切な保険」として認められます。
協会けんぽへの入り直しは求められていません。
ただし、この承認を受けずに建設国保のみというケースは問題になりますので、年金事務所に確認してください。
Q2. 一人親方を使っていますが、経審に影響しますか?
一人親方本人の保険加入は個人の責任ですが、実態が労働者であれば使用する側の会社の保険加入義務が生じる場合があります。
経審そのものへの直接的な影響よりも、現場入場や元請からの選定において問題になるケースが増えています。
実態に即した契約形態になっているか、一度整理しておくことをお勧めします。
詳細は社会保険労務士にご確認ください。
Q3. W点の社会保険加入で15点を取るには何が必要ですか?
健康保険・厚生年金保険・雇用保険の3種類すべてについて、国が定める「適切な保険」に加入していることが条件です。
経審申請時点で加入が確認できる書類(保険料の領収書・納入証明書など)の提出が求められます。
1種類でも不足があれば満点にはなりません。
Q4. 法定福利費を見積書に載せていないと問題になりますか?
直ちに法律違反になるわけではありませんが、元請からの指導や契約の見直しを求められることがあります。
公共工事では標準約款の改定に伴い内訳明示が求められる場面も増えており、民間工事でも同様の動きが広がっています。
適切な保険料率で計上しているかどうかも含めて、年度ごとに見直す習慣をつけることが大切です。
この記事は情報提供を目的としており、手続きの代行や法的助言を行うものではありません。
最新の情報は各行政機関の公式サイトでご確認ください。