社会保険に入っていない業者は現場に入れない?民間工事でも求められる加入証明の実態
結論から言います。
社会保険に未加入のまま現場に入ろうとすると、元請から「入場お断り」を食らうケースが、今や公共工事だけでなく民間工事でも当たり前になっています。
国土交通省が平成29年度以降、元請企業に対して「未加入業者を下請として選定しないよう要請する」と明確に打ち出したことで、現場の空気は大きく変わりました。
しかも最近は、民間の発注者側も「施工を社会保険加入企業に限定する」という誓約書を活用するよう、建設業団体や地方公共団体へ通知が出ています(平成30年1月26日付)。
誓約書のひな形はWord・Excel両形式で国交省のページから入手でき、発注者が元請に対して「うちの工事は加入済みの会社しか使わないよ」と明示できる仕組みになっています。
詳細は国土交通省の公式ページ(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000080.html)でご確認ください。
「うちは小さい会社だから関係ない」は通用しなくなっている
よく聞くのが、「うちは従業員5人以下の小規模だから厚生年金は関係ない」という話です。
確かに個人事業所で常用労働者が5人未満であれば、健康保険・厚生年金の強制適用にはなりません。
ただし、雇用保険は従業員を1人でも雇っていれば原則加入義務があります。
そして実態はどうあれ、「適切な保険に入っているか」が現場入場の基準になるわけです。
法人であれば、代表者1人しかいない会社でも健康保険と厚生年金は強制加入です。
「社長1人だから国保と国民年金でいいだろう」という認識のまま営業している法人も実務の現場では時々見かけますが、それは未加入扱いになります。
下請指導ガイドラインで確認されるのは「適切な保険」かどうかであって、何かに入っていればいいという話ではないので注意が必要です。
建設国保(国民健康保険組合)に入っている場合はどうなるか
建設業界では、協会けんぽではなく建設国保(国民健康保険組合)に加入しているケースが多くあります。
法人の従業員でも、年金事務所に「健康保険被保険者適用除外申請」を行って承認を受ければ、建設国保+厚生年金の組み合わせで問題ありません。
この申請を忘れたまま建設国保だけ入って厚生年金を無視しているケースが、実務でたびたびあります。
「建設国保に入ってるから大丈夫」と思っていたら厚生年金が抜けていた、という落とし穴には気をつけてください。
逆に、適除承認を取って建設国保+厚生年金に加入している場合は、改めて協会けんぽに切り替える必要はありません。
令和6年12月からは健康保険証が廃止されてマイナ保険証に移行しましたが、現場での加入証明書類の取り扱いについても令和6年11月6日付で事務連絡が出ていますので、確認しておくと安心です。
見積書への法定福利費の明示も「義務」に近い扱いになっている
社会保険加入と切り離せないのが、見積書への法定福利費の内訳明示です。
法定福利費とは、健康保険・厚生年金・雇用保険の事業主負担分のことで、これを見積書に明示することで下請が保険料を確保しやすくなる仕組みです。
元請・上位下請が「法定福利費込みで総額いくら」という見積もりしか認めない現場は増えており、内訳を出せない業者は値切られやすい立場に置かれます。
料率は年度ごとに変わるため、国交省のページにある作成手順と最新料率を都度確認するのが確実です。
令和8年3月には「子ども・子育て支援金」の取り扱いについても事務連絡が出ており、見積書の記載方法に影響する場合があります。
顧問の社労士や行政書士と連携して、最新の料率と記載ルールを押さえておくことをお勧めします。
一人親方を使っている場合の注意点
一人親方は請負として働く場合、国民健康保険と国民年金への個人加入が基本です。
ただし、実態として「毎日同じ会社の指示で働いている」「自分の道具を持たず会社のものを使っている」といったケースは、労働者性があると判断され、その会社の社会保険に加入させなければならない場合があります。
これが「偽装一人親方」の問題で、国交省も検討会を立ち上げて対策を進めています。
令和8年3月には「一人親方に関する基礎知識」のリーフレットも新たに発出されましたので、一人親方を多用している会社は一度整理してみることをお勧めします。
実際に「この人は本当に一人親方として扱っていいのか」を判断するチェックリストが、国交省のリーフレットに付属しています。
現場で曖昧なまま使い続けると、後々の是正指導や経審への影響にもつながりかねません。
社会保険加入状況は経審にも影響する
建設業の経営事項審査(経審)では、社会保険の加入状況がW点(その他の審査項目)に反映されます。
健康保険・厚生年金・雇用保険の3つにすべて適切に加入していれば15点、1つでも未加入があれば加点されません。
完工高や技術者数と違って「すぐに対応できる」項目なので、未加入のままにしておくのはもったいないです。
W点の配点は小さく見えますが、P点(総合評点)への影響は確実にあります。
よくある質問
Q1. 民間工事でも社会保険の確認をされるのですか?
されます。
国交省が平成30年1月に建設業団体や民間発注者団体へ通知を出して以降、誓約書を活用する発注者が増えています。
大手ゼネコンが元請の現場では、下請登録の段階で加入証明書の提出を求められるのが一般的です。
Q2. 建設国保に入っていれば厚生年金は不要ですか?
法人や常用労働者5人以上の個人事業所であれば、厚生年金は別途加入が必要です。
建設国保(国保組合)への加入は、健康保険の代替にはなりますが、厚生年金を免除するものではありません。
年金事務所で適用除外承認を取った上で、厚生年金にも加入するのが正しい組み合わせです。
詳細は最寄りの年金事務所または社会保険労務士にご確認ください。
Q3. 一人親方への仕事の出し方で注意することはありますか?
実態が労働者に近い場合、「偽装一人親方」として指導対象になる可能性があります。
国交省が公表している「働き方自己診断チェックリスト」を活用して、請負か雇用かの実態を整理しておくと安心です。
判断が難しいケースは社会保険労務士への相談をお勧めします。
Q4. 相談窓口はどこですか?
現場入場や下請指導ガイドラインに関する質問は「建設業フォローアップ相談ダイヤル(0570-004976)」へ。
社会保険制度や加入手続きに関する質問は、各都道府県の社会保険労務士会の相談窓口をご利用ください。
窓口一覧は国交省の上記ページからたどれます。
Q5. 見積書の法定福利費、料率はどこで確認できますか?
健康保険料率は協会けんぽ、厚生年金保険料率は日本年金機構、雇用保険料率は厚生労働省の各公式サイトで毎年度の最新値が公開されています。
料率は年度ごとに改定されるため、古い数字を使い続けないよう注意してください。
この記事は情報提供を目的としており、手続きの代行や法的助言を行うものではありません。
最新の情報は各行政機関の公式サイトでご確認ください。